中谷風の瀋陽日記・以前10

 毎日のように、震災の報道と福島原発の事故の報道に囲まれながらも、徐々にではあるが、日常が戻って来つつある。このブログも、本来の役割に戻していきたい。

 春蘭とマムシと“満州”(4)

 父が掘っ立て小屋に入っていったのはフォンにとっては意外なことだった。中からはもんぺ姿の女の人が出てきたのにはびっくりしてしまった。さらには、そのおばさんが変にジロジロとフォンを見ているのも、何となく気味が悪かった。
 その家は、里山の堤から流れ出る小川が平野部に出る寸前の山肌にしがみつくように建っていた。杉の丸太が皮も剥かれないままに、柱に使われたりしていて、いかにも急増のもので、村のどの家の納屋よりも小ぶりの、掘っ立て小屋としか言い様のないものであった。
 おばさんは父と話しながら、時々熱っぽい目でフォンを見ながら、作り笑いのような笑みを浮かべたりした。それだけでも気味が悪いのに、おばさんの身なりといったら、何か継ぎの当たったドンコのようであり、髪がほとんど白髪に近いのも異様な気がした。また、どう見ても、小屋の中には電球らしいものは見当たらなかった。昔話に出てくるお化け屋敷か、山姥棲んでいる小屋というのはこんなものかと思わせる風情があって、炭焼き小屋でももう少しましだったのではないかと思われた。