2013-12-01から1ヶ月間の記事一覧

恤民3ー瀋陽(小説)

その日も暑かった。瀋陽でも真夏の盛りは30度を越える日も多いが、鋳物工場の中は40度を越える日が多い。炉で溶かした鉄を鋳型に入れるのだから、鋳物工場は毎日が熱との闘いだった。 吉林省でも内モンゴルとの省境に近い寒村から、呂溢心は出稼ぎに来ていた…

大連ー瀋陽日記

大連へはこれで三回目である。飛行機の一時待避で行ったのを含めると、四回目にはなるが、今回は忙しい日帰りだった。日帰りにもかかわらず、これまでとは違った、大連の顔を味わうことができたように思う。 仕事は教師の会の大連での動き方、組織形態、中国…

恤民2ー瀋陽(小説)

彼は博物館の両手をもぎ取られた座像のように、身じろぎ一つしないでただ真っ正面を見据えていた。タイル石の歩道に段ボールのような敷物を敷いて、座禅のように組んだ脚には毛布が掛けられている。しかし、腰から上は、一枚の灰色の半袖シャツを着ているだ…

恤民ー瀋陽(小説)

後漢の光武帝の心意の奥底には「民を恤する心」があったと宮城谷昌光の小説『草原の風』の中に記されていた。王莽の圧政から赤眉の乱を経て、まことに「平凡」に見えていた者が、王朝の主催者の席に駆け上っていく微細を、この作家特有の平易だが、衒学的な…

窓2ー瀋陽(小説)

どうして私にばかり、こんなことが続くのだろう。 今朝方、出勤してすぐに副園長の劉玉英から叱責を受けた。5歳児の宝児の林檎アレルギーの件で抗議の電話があったと言うのだ。確かに園内で出された昼食の中にデザートの林檎が混じっていたが、宝児に林檎ア…

窓ー瀋陽(小説)

窓に映った男の黄緑の帽子が気になって仕方がない。きっとこの男は外国人なんだ。中国人が緑の帽子を被ったら物笑いの種になるのに、この男はそんなことにも気付いていないのだから。徐彩燕は地下鉄の2号線の車両の自分の左側で吊革を掴んで窓を見ている男…

聖誕2ー瀋陽日記

その人は僕の右隣に座っていた。関西地方のある県の役所に勤めていて退職して4年目だと言っていた。僕よりいくらか若いが、一見して公務員だったのではなかろうかと感じさせる雰囲気があった。というのも、名刺がないのでと渡された紙片には楷書できちっと…

祝賀ー瀋陽日記

天皇誕生日は本来12月23日なのだが、12月10日には瀋陽で天皇誕生日レセプションが瀋陽市内の商貿飯店で行われた。この2年間、夫人同伴でという但し書きに恐れをなして出席を遠慮していたのだが、今年ばかりは立場上でなくてはならなかった。 どのような会な…

聖誕節ー瀋陽日記

聖誕節(クリスマス)パーティに出席するのは、2回目である。そこでいろいろな人に出会うのだが、僕の隣の席にいた女性のことを紹介しよう。 隣席の女性は目がくりっとして愛嬌がある30前後の女性で、どこかしら中国人の雰囲気をもった人だった。その左側の2…

肖豊3ー瀋陽日記

「つまり、パパは自分が大学に行くのを諦めたと言うことだよね。後悔したことはなかったの?」 「ちょっと残念に思ったこともあったんだけど、後悔なんて一度もなかった。後悔はどんな誤りよりももっと大きな誤りだ。後悔してもなにも変わらない。だから、将…

肖豊4ー瀋陽日記

「そうか、留学するか、いいね」 「でも、まだ心配しているの。もし、これは私が衝動的に決めたことなら、どうする」 「いろいろ悩んだあと得た結論は衝動的な考えではない。決まりだ」 「そうだね、はい、決まりだ」と私は言った。とたんに気持ちも軽くなっ…

肖豊2ー瀋陽日記

11月14日 先週、父が迎えに来てくれた。帰宅の途中に父がいつものように「今週学校で何か面白いことがあったか」と聞いた。「えっと、別に面白いことはなかったけど、伝えたいことがあるの」と私は言った。 「今週から日本語会話の授業で先生が私達に日本語…

肖豊ー瀋陽日記

肖豊とは学生の名前である。彼女の文章がとても良いので、無断で転載する。 10月28日 昼ご飯が終わった後、母に電話をかけた時「父さんはどう」と聞いた。意外にも「父さんはね、また朝までずっと残業していたの。身体大丈夫かな」と答えが返ってきた。それ…

お萩ー瀋陽日記

学校の日本語文化祭で残った糯米を貰っていたので、お萩を作ってみようかという気になった。昨日、市場でやや大きめの小豆を見つけて買っておいたのだが、それを昨夜から漬けておいて、昼過ぎからあんこを作り始めた。小豆を350gほど(目分量)に塩を少々、…