莫言2ー瀋陽日記

 活劇を42集まで見終わったので、久しぶりに街に出てみた。書店によって、莫言の著作を探してみようと思ったのだが、予想通りというか、「莫言の著作はどれも全くありません。」という書店の店員の返答であった。日本でも、妻の情報によると、莫言の著作は全くなく、今急いで増刷中であるとのことだったが、中国でも事情は同じことのようである。先週の土・日にはまだ残っていたらしく、学生がやっと購入できたのが『壇香刑』(日本語訳「白檀の刑」中公文庫・吉田富夫)だけだったらしく、読んでみても全く分からないといっていた。
 それも、『蛙』(「蛙鳴」)も「紅高粱」も何も見当たらないのである。中国の出版業界にしても初めての経験で、こういう事態を全く予測していなかったような気配だ。それでも、玄関の上に示される、宣伝テロップには、「慶祝莫言氏のノーベル文学賞受賞」と出ていたので、少し期待していたのだが。
 しようがないので、小1時間、書店の中をうろついてみた。CDやDVDのコーナーには、古い名作の録画などがあったが、京劇のコーナーの名作名演のシリーズに「覇王別姫」などがあった。誰の舞台だろうと思って見てみると、なんと梅蘭芳(メイランファン)と書いてあった。本当に彼の映像だろうか、そうとしたら、とても古い映像だろうな。それにしても、どこに保存していた映像だろうかといろいろ想像をめぐらせた。梅蘭芳(メイランファン)が中国でも屈指の俳優であるのは事実だが、解放後、文革が終わるまでの暗黒の時代を生き延びた俳優もまた、数少ないのだろうなとこの国の不幸な一時代のことを考えざるを得なかった。
 莫言さんも土を食べたという、極限の時代を生き延びてこそ、現在の隆盛があるのだが、その時代の経験者の多くは子や孫にそのことを語りたがらないという。