金貨ー瀋陽日記

 家から送って貰った『3千枚の金貨』(宮本輝)を読み終わった。前作の『草原の椅子』と対になるような沙漠(砂灘)の描写が不思議と生々しい。新疆ウイグル自治区トルファンからコルラ、クチャ、アクス、カシュガルと西に向かう旅での印象的なエピソードがちりばめてあった。しかし圧巻はタシュクンガルから国境の峠を越えたカシミールの中心都市フンザでの夜景だ。満天の星とともに眼下の星(民家の明かり)が入り乱れて、いずことも境界が知れない。蝋燭の明かりの下で食事を取り、一台だけあるテレビなどには誰も見向きもせず、ひたすら星明かりに包まれている。
 そんな、得がたい風景が心の中の宝石のように描かれている。
 3千枚の金貨を探す冒険(?)に中年の男(三銃士)と美人ママ(ショット・バーの)の4人が乗り出していく。政財界フィクサーと思しき男の遺言がきっかけだったのだが、得体の知れない男たちとの絡み合いもあって、一種のエンタメ小説的な部分もある。祇園花街の歴史も織り込まれているが、不思議と清潔感のする男女と性の描き方なのだ。
 和歌山県の湯浅近辺に設定された桜の巨木の下に、例のメープル金貨が埋まっているというのだが、1オンスメープルリーフ金貨がどんな輝きか、無縁の僕も、一度は見てみたい。現在金のレートは1グラムどのくらいなのか、とても気になる。