中谷風の瀋陽日記・以前14

 いよいよ、明日出発だ。航空便の荷物と関西空港までのスーツケースをそれぞれ送り出したところだ。
 やや春めいた日差しの中で、桜の開花宣言がちらほら始まり、今日の東京の開花宣言で平年並みとのこと。寒い日が続いていたので、きっと今年は遅いのだろうと思っていたが、意外だった。恐らく、僕の感覚が温暖化に慣らされていたから、今年はひどく寒いように感じていたのだろう。(東北の大震災のこともあるが。)この感覚の誤差に改めて驚いている。日本の桜を暫く見ることもないだろうか。
 旧友や息子たちにもブログ開設を伝えたところ、「楽しみにしている。」との返事が返ってきた。書くほうも、俄然やる気が出てくる。
 楊逸の『ワンちゃん』を読んだ。彼女のものは芥川賞を貰った『時の滲む朝』を読んだことがあり、日本語学校の教材に、朝日新聞の広告のページにある「仕事力」というインタヴュー記事を扱ったことがあった。現在の中国人留学生と80年代の留学生である楊逸(ヤンイー)とはかなり時代背景も違い、感覚も異なるのだが、共通する部分、現代の留学生が共感できる部分も多いように思えて、教材としたものだった。この『ワンちゃん』は中国での不幸な結婚を解消するために日本人と結婚した主人公が、生き延びるために、自己実現のために、中高年に差し掛かった日本人男性数人を「結婚ツアー」に引率して行く話なのだが、中国人の結婚をめぐる悲しさと滑稽さ、日本人の滑稽さと悲しさを等分に描き分けているように思う。80年代の「異国の花嫁」が話題になっていた頃を背景に書いているので、日中の関係もまだぎすぎすしたものではなく、どこか穏やかな部分もあるのが、現在の目から見ると懐かしい。
 いくつかの日本の書物を持っていこうと思う。また、読んで分かるようになれば、向こうの書物などの紹介もしたい。では、行ってまいります。