戦争2−瀋陽日記

 男の語りは続く。「昼間の銃撃戦は恐ろしうないが、夜は怖い。どこから飛んでくるかわからん。それに地面を這うように撃つんや。わしら初年兵は真っ先に塹壕を飛び出さないかん。一緒に来たもんが、さっきまで話をしていたもんが声がせんなと思うたら、鉄兜の下から血を流してもう死んでいた。わしらは前からも横からも打たれて逃げ場がなくなった時、後ろの塹壕に逃げ帰ろうとして走った。そうしたら、この左足を撃たれた。痛いという感じじゃなかった。熱い、焼け火箸で肉を焼かれるような感じがした。幸い友軍がいたから、後方に連れて帰ってくれた。だからまだ命があるがやけど。応急手当はしてもらったが、野戦病院まで行くのにまた何日もかかった。体中に毒素が回って、高熱が続いた。どうも足が腐り始めていたらしい。軍医は、命を取るか片足を取るかと聞くから、わしは一思いに殺してくれというたがやけど、気を失った。気が付いたら手術は終わっていた。体を動かそうとすると左足が痛い。手で触ってみたら、左足が太腿の下からなかった。
 その無くなった左足が時々痒くなるんや。不思議なもんやな。あのまま放って置いたら体中に毒素が回る瀬戸際やったとその時説明を聞いたが、何で殺してくれなんだがやと命の恩人の軍医を恨んだ。」(続く)