李歐ー瀋陽日記

 李歐ー高村薫の小説
 教師会の本棚にあった「李歐」を昔読んだ気がしながらも借りた。実は、家にはあったのだが、私は読んではいなかった。読み始めたら止まらない。よくある話、歯を磨きながらも読んでいた。
 扉に「惚れたって言えよーー。美貌の殺し屋は言った。その名は李歐。平凡なアルバイト学生だった吉田一彦は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。しかし、二人の見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の歳月が二つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷きにしてあらためて書き下ろす美しく壮大な青春の物語」と書いてあった。まさに、高村の真骨頂のエンタメ小説なのだが、拳銃の構造や機械工作の旋盤などをよく調べて書いているのには感心した。特にフライス盤とかボール盤などの言葉を見ると、昔、工業高校の実習体験で足を踏み入れた、実習工場の油の匂いや火花や切削するバイトの音などが蘇って来た。それだけ、書き手の調べが行き届いていたということなのだろう。また、途中で出てくる朝鮮人、韓国人、中国人のそれぞれの時代状況に生きる人間の存在感も上手く描き分けられていた。さすがうまいねと思いつつ、他の仕事を放棄して没頭した。最後は斉斉哈爾から嫩江沿いに北に向かったところにある「櫻花屯」の美しい描写で終わる。実在したら行ってみたいような風景だ。ま、実在はしないだろうが。