香川ー瀋陽日記

 香川照之が中国映画に出演していた。霍建起監督の「暖」(『故郷の香り』)(2003年制作)である。主人公暖(nuan)の聾者の夫の役である。言葉が通じないもどかしさと妻や娘に対する愛情をきめ細かに演じていた。
 実はこの作品はNHK中国語講座の教材として知ったのだが、その作品を最後まで通してみたのは、数日前だ。霍建起監督は『山の郵便配達』(原題「那山、那人、那狗」)やこの作品から日本でよく知られるようになった。また、この映画の原作は莫言著『白い犬とブランコ』で、日本訳者が吉田富夫氏である所にも親近感を持っていた。
 ヌアン・(暖nuan):農家の娘。村に来た京劇団の二枚目役者に恋をし、いつか二枚目役者が自分を迎えに来てくれると信じている。夢破れ、ジンハー(井河)の求婚に応じようとしたときに、その事故は起きた。運命は彼女を別の方向に導く。
 ジンハー(井河jinghe):貧農に生まれたため遅れて就学した。同級生のヌアンに片思いする。ヌアンに求婚した直後にその事故は起きた。障害者となった彼女に責任を感じる彼は、大学に合格して村を離れるが、必ずヌアンを迎えに戻ってくるつもりだった。しかし都会の生活が彼を変えてしまった。
 14年ぶりに帰ってきた故郷は何も変わっていなかったが、たまたま遭ったヌアンは身体を覆う刈草を背負って、不自由な右足を引きずりながら、板橋を渡ってきた。彼女は結婚して子供もいるという。その場面から話は始まる。
 夫というのが、香川の演ずる聾者の農夫である。彼はアヒルを飼い、蚕をを飼い、藁仕事をしたりしながら稼いでいるらしい。(続)