香炉-瀋陽日記

 先日、中街で一緒に食事をした男の子が今日、突然、「母からです」と言って、箱をくれた。何が入っているのか確かめてみたら、銅製の仏具(法器)だった。
 そういえば、土曜日の食事の後、散策しているときに「チベット仏教に関心がありますか。法器に関心がありますか。」と聞いていたので、「ウン関心はあるけど」と生返事をしていたのだが、それが、こんな形に化けてこようとは思ってもみなかった。
 その時は、金のインゴットに関心があって、どこかの宝飾店を紹介してくれと言って、学生に案内させていたのだった。中街の中程に宝飾品の専門店があるのを始めて知った。通りすがりに見て、高級の食べ物店だろうと思い込んでいたのが、何と瀋陽では誰もが知っている宝飾店だった。
 中に入って確かめてみたが、金の延べ棒(金条)というものは売っていなかった。比較的細工が少ないもので、干支の蛇を描いた線刻の延べ板のようなものがあった。側に388元と値段が書いてあるのは何か聞くと、1グラムの値段だという。巳年の延べ板は100グラムと書いてあるから、38800元することになる。僕の2年間の貯金でも手が届かない額である。1元=15円で計算して、582000円になる。
 中国元を日本に持って帰っても、今のインフレ状態だと5年もしないうちに半減する。だから、金なんかに換えるのはどうかなと思ったのだが、その金もかなり高値の状態が続いている。余りの高値に驚いて、その日はそれきりになってしまったのだが、仏具に興味があるかと聞いた男の子は、その時の問答を忘れてはいなかったようだ。
 箱を開いてみて驚いた。手作りのかなり値の張る物のようであった。中には彼が翻訳したと思しき説明書の日本語訳が入っていた。
 《香炉はチベット族の日常生活用品で、神仏に香を供えるためのものです。
 チベット族には「煨桑(weisang)」という民俗があります。この香炉は「煨桑用の仏塔」の型式です。「煨桑」は神仏を祭る一つの方法ですが、チベット族の人は「神仏を祭れば自分は絶対に幸せになる」と信じています。
 この香炉は手作りのもので、とても良いものです。》