通化ー集安日記

 通化という町は、集安よりも一回り大きい街のようであるが、基本的には工業都市になっているようで、帰りの車窓から林立する煙突が見られ、その多くが煙を吐いていた。通化に着いたのは朝の6時半頃だったので、次の集安行きの列車の発車時間7:32までにはまだ1時間余りあった。駅の構内にいた駅員に聞くと、一旦は駅を出て、待合室で改札時間まで待つようにとのことだった。朝食用にゆで卵とアンパン、バナナなどを持ってきていたのだが、それでは足りそうにないので、こちらの市販のインスタントラーメンを買って、一緒に食べた。

 通化から集安まで約3時間10分ほど掛かる。僕が買った切符は指定席ではなかったので、自由席の2号車に乗った。すわった席の前には老人が一人座っていた。当初は相手を警戒するようなそぶりだったので余り話しかけなかった。話してもほとんど言葉が通じないからでもある。ヒマワリの種を囓りながら、勧めてみてもいらないという素振りだ。移りゆく車窓を飽きずに眺めていたが、この辺りは山がちで日本の風景と間違えそうな場面が一杯あって、なにがしか懐旧の情のようなものに捉えられた。後日談になるのだがガイドの娜娜さんの母親が京都の嵯峨野を観光したとき「まるで集安やんか」と言ったそうだから、それほど似た風景があるというのは、僕の錯覚や誇張のせいではない。


 集安に間近くなって、やっと前の小父さんが話しかけてくれた。長白から集安の友達の所に向かう途中だという。長白とは長白山(白頭山)の麓の街だったと記憶している。その街で何をしているのかと聞いたが、答えてくれた言葉が分からない。メモを出して、書いて貰おうとしたら、書けないという。まさか字が書けないのかと思っていると、脳梗塞で右手が使えなくなったといった。写真を撮らせてくれというと、とても良い笑顔をしてくれた。