吊炉餅ー瀋陽日記

 吊炉餅(吊炉饼)diaolubing:吊炉=①蒸し焼きがまの一種:中に石綿製の炉に火を盛ったものを吊り下げ、上方から熱が加わるようにして焼く。②同前のかまで焼いた焼餅:〔吊炉烧shao饼〕の略。
 日本人教師4人と学生2人で5月の連休に遼寧省の朝陽と言うところに1泊旅行をしようということになった。昨年は山海関を見たので、近くを物色していたところ、朝陽の鳳凰山の仏塔を見たいと科学のM先生が提案したので、一二もなく賛成した。列車にするか、バスにするか、マイクロバスをチャーターするか検討して合わせて旅館の予約を頼もうと中山広場の近くのS国際旅行社を訊ねた。
 10時半にその旅行社に入ったのだが、現地の旅行社と連絡を取ったりしているうちに、12時半を過ぎてしまった。相手方も昼飯に入ってしまってなかなか連絡が取れないでいたのだが、一段落したところで、旅行社のコウさんが「昼ごはんにピンを食べに行きましょう」と誘ってくれた。饅頭(マントウ)や大餅(ダーピン)は食べたことはあるだろうが、今日は少し変わった餅(ピン)だという誘いで彼が良く昼食を摂りに行く店に案内された。
 店は旅行社のすぐ近くにあった。中山路を少し北東に行って、右折した北五馬路に面して食べ物店が並んでいたが、その一角に「楊家吊炉餅」という店があった。全く庶民の店だった。コウさんの勧めで、吊炉餅二枚と餡かけ卵豆腐、餡かけ豆腐を注文した。コウさんが奢ってくれるという。吊炉餅は饅頭や大餅と違って、捏ねた生地を麺ぐらいの細さに引き延ばしたものを束ねて、とぐろを巻くように巻き上げたものであった。炉で焼いたというよりも、油で揚げたのではないかというものだった。確かに美味しかったのだが、少し油がきついのが僕の嗜好には合わなかった。だが、二枚平らげて、餡かけ豆腐を食べ終わると、お腹が一杯になった。餡かけ卵豆腐まで手が回らなかったのだが、少し無理して食べた。お腹がぱんぱんになった。
 日本人が来るのは珍しいらしく、店主や客が話しかけてきた。小父さんが隣のテーブルに座って、コウさんと話している。聞くと札幌で三年間ほど働いていたことがある。仕事は冷凍工場で従業員として働いていたという。日本の町はどこも綺麗で落ち着いていてとても好きだという。今は、近くのビルの管理人をしているというのだが、札幌ではいくらか儲けて、中国に仕送りしていたようだ。彼は、東京の印象も語っていた。周りの人は彼の言葉に聞き入っていたが、庶民の中には日本贔屓の人もいるのだと実感できた思いがけない一日だった。