治療ー瀋陽日記

 貴賓室で待つこと10分、僕の番になった。治療用の椅子に座ろうとして靴を脱ぐと「脱がなくてもいい」とのことだが、履き直すのも面倒なのでそのままにした。
 今度の先生は、日本語が全く通じないので、通訳のカイチ君の存在が心強い。治療器具の使い方はほとんど日本と変わらないように見える。第1回目なので、欠け残った歯の整備と根元の治療だ。歯の整備を始めて暫くすると神経に障り始めた。「痛い」とサインを送ると、麻酔をしましょうとということになった。歯茎に麻酔を打って、医者が暫くマッサージしてくれてから、治療を再開した。少し痛みが残っていたが、耐えられないことはない。そのうち気にならなくなった頃に治療は終わった。
 今までの経験からすると、その日の治療代はその日のうちに払うのだが、今回はすべて治療が終わってからで良いと母親の看護師が言った。察するところ、彼女の身内の扱いで治療を受けることにしているようだ。それというのも、保険の扱いをどうするかというやりとりの中で分かったのだが、日本の健康保険に適用して貰うためには領収書がいるというと、そうすると、正規の値段で治療することになると言う。つまり半額にするのは、医療関係者の特典を使うからなのだと理解できた。僕の乏しい知識で、セラミックの義歯が日本で保険適用内なのかどうか分からなかったので、これも彼女の勧めにしたがって、領収書は不要だということにした。
 治療が終わって、10日後の23日に次回の治療を予約した。これも、母親が段取りを決めてくれた。
 治療を終わって待合室を通ると待っている人は半分以下になっていた。1時過ぎに来たときはほぼ満席だったから、普通に順番を待っていたら僕の順番はまだだったかも知れない。こんなところに、この国の「コネとカオ」の威力を実感した。勿論、今回もその恩恵に預かったのだが。
 歯と唇の麻酔によるしびれは4時間ぐらい消えなかった。