歯医者ー瀋陽日記

 歯の治療がやっと終わった。欠けた門歯の右2番をセラニック歯で成形した。これで、5回の通院で全部の治療が終わったことになる。
 手帳を元に振り返ってみると、9月12日、初診、残存部の掃除と整形、X線撮影、9月16日、歯根部の治療と整形、9月24日、台を付けるための歯根の整理、型どり、 9月26日、台の装着と仮義歯の装着、 9月30日、セラミック製の本義歯の装着。つまり、19日間ですべての治療が終わったことになる。日本の歯医者では考えられないスピードである。セラミックの義歯を入れてから、24時間は硬いものを噛んではいけないと言われているので、今日の2時頃までは、食事に気をつけなければならない。歯がなくなってから、両側の門歯と犬歯が気ままに遊んでいた状態だったのに、間に新義歯が入ったので、今は若干左右に違和感がある。が、これもそのうちなじむだろう。
 この5回の治療に、5回ともカイチ君が付き添ってくれた。お陰で、言葉に不自由することはなかった。最終日に「噛み合わせぐらいの中国語を覚えて行きなさいよ」と妻から助言(?)を得ていたのにもかかわらず、その準備はしていなかった。だが、今回も主治医のパオ先生の日本語で、十分意志は通じた。これだから、中国語は一向に上達しない。義歯を入れて調整するときにも、上下の歯を横にずらすと少し引っかかったので、その旨を日本語で言うと、先生は、「ああ横にね」といって、また調整を続ける。パオ先生は、日本の愛媛大学に留学していたとのことで、日常会話や治療用の言葉には不自由しないようだ。
 仕上がった歯並びを鏡に映して見せて貰った。左右の歯と違和感のない色合いで、すんなりと収まっている。十分満足できる。治療費は予定よりも安く、1500元だった。
 カイチ君の母が歯科の看護師をしていることは知っていたが、父も歯科医をしていると聞いて驚いた。なんでも、高考(ガオカオ=大学入学センター試験)の物理のマークミスで第1志望校に行けなかった父は、知人のアドバイスもあって、歯科医の将来に賭けて、医学部の歯学科を選んだという。母とは高校の同級生で、二人で励まし合って、人生を切り開いてきた。遼寧省の海城生まれの二人は、どちらも農民の子で、何としてでも農村を出たかったのだそうだ。
 努力の甲斐あって、今や歯科医と看護師である。そして、優秀な息子は、第1希望を生命化学に、第2希望を歯科医にして、日本留学に向けて猛勉強中である。彼が合格の朗報を聞かせてくれる日を心待ちにしている。