車掌3ー太原紀行

 武郷行きの寝台車の車掌は、40代と思しき仕事のできる感じの女性だった。制服をきちんと着こなして、車両の中を良く点検し、乗客の様子、動向も把握している。その彼女が、前の席の祖母と孫に話しかけていた。内容は分からないのだが、行き先のことなどを話しているのかも知れない。
 祖母と孫と母親の3人連れは晋城まで行くといっていたが、その街がどこにあるのかも分からない。古代の晋の国都と関係があるのかと聞いてみたのだが、僕の中国語では質問の意味すら理解できないようであった。後日、地図で確かめると、晋城は山西省の南部、河南省との省境に近いところにあった。
 車掌の話し声を聞くともなく聞いているうちに、僕は眠ってしまっていた。気が付くと、前の席にその女車掌が布団を被って寝ていた。今勤務中なんだけど、こんなことって許されるんだと、ビックリして眺めていると、起き出した車掌は僕にどこへ行くかと聞いた。武郷まで、八路軍記念館を見に行くのだと答えると、珍しい外国人もいるもんだという感じで僕の顔を見ていた。武郷に近づいたら起こしてあげるからと勧められて僕は寝たのだが、暫く寝入って気が付くと停車中だった。慌てて、リュックを持って飛び出して降車口を下りようとしたら、彼女が武郷は次の駅だという。いつの間にか彼女は起きて、車掌の仕事をしていたのだ。引き返して、また、暫くうとうとすると、彼女が起こしに来てくれた、あと10分位で武郷に着くのだという。折良く武郷で降りる客がいたので、その人と一緒に下りることにした。
 車掌がこんなに親切にしてくれるのは、初めてであった。ほとんどの車掌はぶっきらぼうで、余り外国人と親しくなろうという気が無いようだが、彼女は外国人であれ、中国人であれとても丁寧に対応していたように思う。この車掌とは、帰りの列車でまた出会うことになるのだが、やはりこれは彼女の人柄なのだろうということが分かった。彼女より幾分若い車掌と比較してみての話であるが、それはまた後日。