改憲論ー瀋陽日記

  安部晋三首相が改憲論者であることは広く知られている。また彼が祖父岸信介を深く尊敬し、祖父が実現し得なかった「自主憲法制定」などを自ら継承すべき課題だと位置づけていることもよく知られる。そういう文脈から見てみると、「村山談話河野談話の見直し」や「靖国参拝」「特定秘密保護法」などが目指す先にあるものが見えてくる。
 「国の安全を脅かす国家機密を敵(中国なのか北朝鮮なのか)から守るために必要」だというロジックは、しかし、やはりいつものパターンだと言わざるを得ない。
 正確を期するために「特定秘密保護法案」の第1条目的の全文を引用する

≪この法律は、国際情勢の複雑化に伴い我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で、我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。≫
 ここに用いられている「特定秘密」とは、従来「国家機密」「軍事機密」という用語であったものだろう。「我が国及び国民の安全」のために制定するというこの文言の中の、「国民」は世論形成のためのカムフラージュであって、「我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるもの」が最大の狙いであろう。
 また第七章罰則 第二十二条 には
≪人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為(略)その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。≫
 この「高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される」という表現から、以前話題になった上海にある中国軍の情報部隊のサイバーアタックやスノーデン元CIA情報部員の亡命(機密漏洩)などを背景にしているだろうことは想定できるのだが、この文案はあくまで国内向けのものである。
 当面話題になっていることがらを除けば、「特定秘密」(国家機密・軍事機密)の漏洩を防ぐという名目で、行政機関の長や内閣の構成員、警察庁長官などとその指定を受けた管理者以外はその情報に接することができないようにすることが目的であるとしか思えない。国民の「知る権利」を奪って、何を目指そうとするのか。情報が管理された社会は、政権が敵視している中国や北朝鮮と同じではないか。そこまでして、何を狙うのか。
 国の安全を守るために、必要なのは軍(自衛隊ではなく)の創設であり、憲法第9条の改訂であるという方向に、国民の意識を持って行こうとしているように見える。(以下次回)