肖豊2ー瀋陽日記

11月14日
 先週、父が迎えに来てくれた。帰宅の途中に父がいつものように「今週学校で何か面白いことがあったか」と聞いた。「えっと、別に面白いことはなかったけど、伝えたいことがあるの」と私は言った。
 「今週から日本語会話の授業で先生が私達に日本語で日記を書いて欲しいといわれた。それで、私の最初の日記の内容はパパの話だよ」
 「えっ、ほんとう」父は信じられない顔で私に聞いた。
 「ええ、ほんとうだよ、お父さんありがとう」と私は言った。普通の会話だけど、言った後は何か恥ずかしいと感じていた。
 「小豊、大きくなったね。俺の方が君に感謝の言葉を言いたいんだ。この18年間俺に付き合ってくれて、いろんな嬉しさを持ってきてくれた。君あっての俺の人生だ。この美しい人生」と言いながら、父は続けた。「ねぇ、ちょっとお願いがあるよ」
 「えっ、なに」
 「いつか父さんが君の心の中でもうヒーローでなくなったても、教えないでくれ」
 これを聞いて、何を言ったらいいか全く分からなくなった。「はい」を除いて私が言えることばがあっただろうか。
 家に帰ってすぐ、私は寝室に入った。ベッドの上に座って、さっきの話しをなんだか夢みたいだと考えて、幸せだと感じていた。以前ならば父の話しを聞くと「何を言ってるの。ドラマみたいに」と言っていた。だが、今の私は、たぶん父のそんな気持ちが分かるようになっていたのだろう。
 私はアルバムを手にして、想い出の中に入り込んだ。ふと、ある写真を見た。写真の中では、私が父の隣にカップルみたいに座っていて、うしろに太陽が美しく輝いている。
 写真は父と二人で小旅行に行ったとき、ほかの人に頼んで撮って貰ったものである。私が高校1年生の時だった。ある休日に父は私を連れて本渓の、今も名前を知らない一つの山に登っていた。登頂した後、周りの美しい景色を見ながら、父は私が一生忘れられない話をしてくれた。
 「小豊、君はすごく悩んでいただろう」
 「はい、そうですけど」
 「パパはねぇ、君と同じ年の時、大体同じ状況にぶつかったんだ。その時、俺も兵隊になるか大学に入るかを悩んでいた」
 「で、どうして最後は兵隊になったの、じいちゃんが決定したの」
 「違うよ、俺自身が決めたんだ。自分が一体何がしたいのかをちゃんと考えた上で決めたんだ」