恤民3ー瀋陽(小説)

 その日も暑かった。瀋陽でも真夏の盛りは30度を越える日も多いが、鋳物工場の中は40度を越える日が多い。炉で溶かした鉄を鋳型に入れるのだから、鋳物工場は毎日が熱との闘いだった。
 吉林省でも内モンゴルとの省境に近い寒村から、呂溢心は出稼ぎに来ていた。30を過ぎても独身の者はどの村にも多かった。中学を卒業してすぐに、男も女も農民工として、長春瀋陽、大連、果ては上海、深圳にまで出かけて行く者もいた。大体は女たちが先に村を出た。農村では初めに女の子が生まれたら、男の子を授かるまで子どもを産み続けるところがある。しかし、3人目からは罰金が付く。それでも親たちは跡取りの息子が欲しくて、生み続けたりする。そうなると、年上の女の子から小学校を出たばかりなのに、親や妹弟のために出稼ぎに出る。彼女たちは、乏しい給料の中から、必要最小限度の寮費や食事代を差し引いた全額を故郷に送金していた。あの劉美麗もそうして、10万元ほどのお金を貯めて、村に戻ってきていた。
 あの子を嫁に貰うには、最低20万元の仕度金を出さなければならない。都会では、家と車がないと嫁に来る子はいないと聞いているが、田舎では、それほど物入りではない。だが、20万元は呂溢心野村では、ほぼ10年分の年収になる。それだけ貯めるのには、まだ、1,2年は働かなくてはならない。うっかりしていると、他の奴にあの娘を攫われるかも知れない。だから、少しでも賃金が高いところをと俺も焦っていたのだ。