招待ー瀋陽日記
昨日は学生の招待を書いたが、今日は思わぬ所から招待されたことを書く。
所は領事館である。と言っても何か危ないことがあって呼びつけられたわけではない。たまたま、この地の教師の会の世話役をしていることから、新しい総領事が現状について説明せよとの意で代表者三人が招かれた次第である。
話しの内容はさておき、総領事の公邸が領事館の敷地の中にあって、正にその場所に総領事と家族が生活していることさえ知らなかった。公邸を訪問して、迎えに出てくれた総領事夫妻の外交官としての身のこなしに、下々の私はすっかり舞い上がってしまった。
夫人の落ち着いた風貌にすっかり見とれて、「おきれいでいらっしゃいますね」などと普段口にしたことのない言葉を口にして、「お口が上手でいらっしゃいますね」とやんわりと窘められたりした。
さて、感激したのは出された料理のメニューである。
金泥で五七の桐を中央に印し、八重の桜を裾にあしらった台紙には「御献立」とあり、招待された日付と総領事公邸の名が記されている。
前 菜 ホタテ貝の三杯酢、タラの芽の白和え、焼き鳥、
揚げ山芋、菜の花のおひたし
お 吸 物 海老真署の清まし汁椀
お 造 り 二種盛(平目、赤貝)
煮 物 冬瓜と蟹の煮浸し
揚 物 天麩羅(海老、そら豆、南瓜、しいたけ)
焼 物 牛ステーキおろし添え
飯 物 サーモンの押し寿司、お味噌汁
デザート 果物(いちご、オレンジ)、
抹茶アイスクリーム
以上だが、こうして記ながら、中国の地でこれだけの献立を用意して貰いながら、メニューのすばらしさについて、素材の素晴らしさについてひと言も言葉を出さなかったことが、振り返ってみてとても残念である。
しかも、余りの美味しさと久し振りに口にした清酒の味に酔って、途中からろれつが回らなくなってしまった。醜態をさらした自分が恥ずかしい。
もし、二度目があるのなら、ぜひ夫婦で訪問したいものだ。その時はもう少し落ち着いて話も出来るだろう。(もう招待されないかも)
しかし、瀋陽の地で味わう和食には似て非なる物が多いのだが、この日の献立は完璧に日本料理そのものだった。しかも上等の。公邸には専属の調理師がいて、その腕には定評があると聞いていたから、それも当然かも知れない。何しろ、すべての面で日本国を代表しているのだから。