瀋陽日記ー偷行李

 置き引き=偷行李
 実は、今日5月1日の19時50分頃の寝台車で長白山への旅に出る予定だった。ところが、今こうしてブログを書いているのは、察しのいい方ははもう分かったと思うが、置き引きの被害に遭った。切符に書いてあった出発時刻に間に合うように、16時40分頃には新装なった瀋陽駅の待合室について、出発時刻が約20分ほど遅れることを知った。暫く持ってきた文庫本「流転の海第4部」を読んでいたのだが、夕食を摂っていなかったことに気付いて、リュックからカップ麺を取り出して、お湯を入れに行こうと考えた。一瞬躊躇ったのだが、そして今まで一度もしたことがなかったのだが、ついバッグと上着と帽子をそのままにして、トイレの近くのお湯汲みの場所に向かった。洗面所が近いので、先ず用足しをして、お湯を入れて、近くの小食堂(小餐庁)に向かった。その時は、一瞬バッグのあるところに戻ろうか逡巡したのだが、折角、カップ麺などを食べる場所に用意されているのだし、待合室の椅子で食べるのも不作法だろうと考えて、小食堂で食べ出した。向かい側には大学生と思しき3人連れがいて、帰省かどうかと聞くと、この休みは短いので、帰省はしない。旅行に行くのだという。そんな四方山話をして、カップをゴミ箱に入れて、座席に戻ったら、バッグも服も帽子もまったく見当たらなくて、見知らぬ男の人が席にかけていた。
 忽然という語があるが、まったく跡形もなく、バッグが消えていたのである。
 動転してしまった。中には、Sonyのデジカメや、地図帳、薬、手帳、文庫本、そして前回の旅で使えると分かった電動歯ブラシなどが入っていたのだ。きっと顔も青ざめていただろう。必死に座席の下などを覗いたり、座っている人に確かめたりしてみたのだが、消えてしまったものが見えるわけがない。焦って、呆然となっていると、親切な人が公安(警察)に届けたらいいと言ってくれたりする。ふと気が付くと、時計は7時50分寸前である。パスポートや財布、携帯は身に付けたままなので、行き帰りには支障はない。改札口に行くと、改札はすでに終わっていた。
 がっかりして、公安を探して被害届を出そうとしたのだが見当たらない。やっと、巡邏中の警官を見つけて、話したが、僕の語学力では、うまく伝わらない。何とか被害に遭った旨を伝えて、階下の警察詰め所のような場所で、被害の申告をした。カメラと電動歯ブラシと現金(万一のために旅行の度に持ち歩く1000元)を申告しただけで、アンパンだの薬だの手帳、ゆで卵などは申告できなかった。
 傷心の僕に、警官は切符を買い換え(無料で)たらいいと教えてくれた。切符売場まで戻って最も早い翌日の9時15分発の急行に書き直して貰った。疲れ果てて、すべて投げ出したくなったが、今夜はひとまず寮に戻って、明日以降の日程を組み直そうと決心した。
 帰って、買い換えた便の白河到着時間を確かめると、何と翌日の0:11となっていた。またまた呆然としてしまった。真夜中に人気の少ない白河について、一体どうしたら良いのだ。
 思案していたら、携帯が鳴った。警察からである。「バッグが見つかった」という内容だった。10時頃だったが、やっと気分が元に戻った。色々思案したが、明日もう一度書き換えようと決心した。
 明日から一日遅れの行程で、長白山への旅に出る。