瀋陽日記ー長白山2

 白山市に入ると沢山の客が下車しはじめた。席も空席が目立ち始めたので、荷物を下ろして、下段席で話しを続けると、乗ってきたばかりの若い女性が向かいの席に座った。青年とその女性が話し始めた。暫く話を聞いていたのだが、女性が僕のことを何人かと聞いてきた。日本人と答えると、日本語の勉強はしていないと答えたので大学で何を専攻しているのかと聞くと、高校生だという。彼女は16才の高校1年だ。実家は僕が下りる予定の二道白河駅から2つ先の松江駅の近くで、高校はその先の三道駅にあるのだそうだ。彼女は英語なら話しできると言うことなので、暫く英語でやりとりしたのだが、どうもうまく話が通じない。そのうち、青年と女の子が親しげに話し始めたので、僕はまた、最上段の寝台に戻って、読みかけの『流転の海5巻』読み出したのだが、少し眠くなったのでまどろんでいた。
 気が付くと間もなく白河駅だという。慌てて荷物をまとめて、下りる準備をしたのだが、読みかけの本をバッグにしまい損ねたらしい。というのは、帰りの電車でもう一度本を取り出そうとしたときはなくなっていたのだ。
 午前零時30分、雪はすっかりやんでいるが、白河駅に下りた時の寒さは冬の寒さだった。防水の効いたアノラック風のジャンバーを予備に持ってきていて正解だったとと感じた。駅の改札口では、乗車するための人々が改札口に列んでいる。二号車両に乗っていて、上着を着るのに手間取っていたからか、他のお客は皆改札口を出てしまって、出口には鍵がかかっていた。出してくれと身ぶりで示すと、駅員が鍵を開けてくれた。


 この時間になったら、ホテルなど探しようもあるまいと諦めて、駅のベンチで夜明けを待つしか無いかなと思って思案していると、30半ばぐらいの女性が声をかけてきた。理解するのに長い時間がかかった話しをまとめると、この駅は乗客が列車に乗ってしまうと閉まってしまう、長白山に行くのなら明日の朝6時半頃に旅客送迎用のバスが駅前から出る。それまでの間休む場所はあるのか。ないのなら紹介してあげるということであった。値段は1泊20元だとも言う。僕は1,2もなくOKを出した。この寒空に駅舎を出されたら凍え死ぬしかないではないか。
 彼女は付いてくるように言った。駅のすぐ前に平屋の家が数軒あったが、その一角のビニールシートが出入り口を被っている家を紹介された。入り口で主人らしき男性に紹介され、2軒の平屋を通り抜けた奧に部屋らしきものが会った。2等寝台を少しましにしたような広さのベッドがあった。窓ガラスは2重になっていたが、内側の2枚が割れたままで、思わず息を呑んだが、一応テレビもあり、ナイトテーブルらしき者もあった。
 とりあえず便所に行って、横になろうと考えて便所を探すと、2件目と3件目の間にそれらしい建物があった。昔の農村にあったような別棟の便所で会った。これもまた、扉の窓ガラスが割れたままであった。扉を開くと、昔懐かしい大きな便壺に広い板二枚が並べてあって、真ん中の隙間には先客の残した物がはっきりと見えるような仕組みであった。おそるおそる用を足して部屋に戻って着替えもしないでそのまま寝た。
 ただ一つ救いは、ベッドに電気毛布が敷いてあって、電源に差し込むと暖かくなった。ともあれ凍えずに寝れるだけでもありがたいと思わなくっちゃ。