剣道ー瀋陽日記

 もともと僕は柔道少年だったから、剣道には縁がない。とはいえ、中学生の頃は隣り合わせで練習している剣道部の連中とも仲良くしていた。夏場になると、暑い柔道着を着てする稽古は苦痛だった。体育館の中で眩暈がしそうなほど暑い上に、分厚い柔道着が汗だくになっていたものだ。同じころ、剣道部はさらに重くて暑い面や胴、小手などの防具をつけて猛練習に励んでいた。その時ばかりは柔道部で良かったと思ったものだ。
 50年を隔てて、瀋陽の地で剣道に出会うとは思ってもみなかった。経緯は、今年の日本文化祭に瀋陽の剣道友会の方々を招いたことに始まる。日本文化の紹介にはお茶やお花の他に剣道も欠かせないと言って、中国人の日本語教師が探してきた道場の関係者である。
 日本文化祭では、体育館の舞台発表で、居合抜き、型の披露、掛かり稽古などを演じて貰ったのだが、学生には大変好評だった。しかも、全員が中国人だった。僕にとっても、これだけのレベルの愛好者が瀋陽にいるということだけで驚きだったが、剣道友の会の方々は手弁当だった。ひとえに剣道の普及のために活動しているようである。
 日本文化祭の責任者の学生、ジョ君は日本留学中に剣道部に所属していた。そんな縁もあって、彼は瀋陽剣道友会の道場「正心館」に通うようになった。
 そのジョ君から館長が一度会いたいと言っているとの伝言があった。その友の会と僕たちの会が合同して何かイベントができないだろうかという打診だそうだ。
 明日の午後に道場を訪問してみようと思う。とりあえず見学という立場で。だが入門する気は今のところない。友人に剣道の高段者がいるので、彼が瀋陽に来た時にでも案内する準備を兼ねて見に行こう。